15. 暗闇
ぼんやりとした意識が戻ってきた時、モオルダアは自分がどこか暗い場所で横たわっているのに気づいた。まるで金縛りにあっているように、頭を動かしてあたりを見回すことができなかった。そして目が動く範囲にはここがどこなのかを判別できるようなものは何もなかった。
意識だけが目覚めていて体が眠っているのか、あるいは今体験していることは夢の中の出来事なのか。暗闇の中で全てが曖昧である。すると、どこか遠くの方から誰かが話す声が聞こえてきた気がした。遠くではなく、すぐ近くに誰かがいるようにも感じられる。その声が本当に聞こえているのか確かめようとしていると、次第にモオルダアが横たわっている場所が何もない空間ではないことが解ってきた。
声は確かに聞こえていて、それはすぐ近くから聞こえていたが、同時に遠くからも聞こえているようにも思える。おそらく音が何かに反射してモオルダアの耳に届いているのだ。声を聴きながらモオルダアはやっとの事で頭を少しだけ動かすことができた。そして自分の左右を確認してみると少し離れたところからボンヤリとした光が漏れてきているのが見えた。
あまりにも弱い光で、やはりこの場所がどういう場所なのかは解らなかったが、声はその方向から聞こえてくるような気もする。モオルダアはその光の漏れてくる方向に目線だけを向けてその声に耳を傾けた。
「もっと犠牲者を増やさないと。これだけやっても少しも変わってないじゃない」
「これ以上は逆効果だよ。危険な場所だと思われたら森が切り開かれてしまうこともある」
「でもお祖父様、このままじゃ、いずれ森はなくなるわよ。私達の居場所がなくなるのよ」
「しかし、予定通り都会から人がやって来たじゃないか。あの二人がどうにかしてくれるだろう」
「そうは思わない。役に立ちそうにないもの。でも男の方は好き。言うこと聞いてくれそうだから。でも女は嫌い。そうだ!あの女は痛い目にあわせたら良いのよ」
「そういうことを言うのはやめなさい。我々の目的は彼らを傷めつけることではないのだ。不正が暴かれさえすればいい。我々は真っ当なやり方で森を取り戻すんだ。…おや、あの男。大丈夫か?」
「あ、いけない…」
ここで彼らの声は聞こえなくなった。二人の声が聞こえてその一人のが野々山葉菜だとしたら、彼女が「お祖父様」と呼んでいたのは小堀家の森の管理をしていた野々山ということだろうか。いずれにしても彼らの話していた内容が気になる。
もっと詳しいことが知りたいのだがモオルダアの体は相変わらず思いどおりに動かない。起き上がろうとしても意識と体が切り離されているような感じで全く動けないのだ。
モオルダアは諦めて目の前の暗闇を見つめていると、さっきとは別の声が遠くから聞こえてきた。彼の名前を呼ぶ声は次第に大きくなってくる。それはスケアリーの声に違いなかった。声が近づいてくると、モオルダアはこれでなんとかなるとホッとした。
するとその時耳元で「モオルダアッ!」と大きな声がしてモオルダアはビックリして飛び起きた。