21.
エフ・ビー・エルの二人はまず警察署に行って小堀かほりについて調べようとしたのだが、警察には彼女の記録はなかった。事件や事故を起こしたり、巻き込まれたりしなければ警察に記録があるワケもない。
それでも無いことが確実になるまで探してほしいと頼むと、あったとしてもそれは葉っぱにすり替わってるんじゃないか?と彼らに対応した警官に言われて、スケアリーはあからさまに苛ついた表情を見せた。警官としては冗談のつもりだったのだろうが、そのあと警官はかなり気まずそうにしてエフ・ビー・エルの二人に対応しなければならなかった。
やはり小堀かほりに関しては他をあたるしかない。スケアリーは町役場へ向かい、モオルダアは小堀かほりのことを知っているという紀尾三刑事に話を聞いてみることにした。
紀尾三刑事は、警官たちの間で「ニセ野々山」という呼び名で呼ばれている野々山を名乗る女性の捜索のために外にいるということだった。だがモオルダアが紀尾三刑事を見つけたときに、彼は街にある喫茶店でアイスコーヒーを飲んでいるところだった。
「いやあ、なんだか急に署長が騒ぎ出してね。それで警察署にいても気まずいことになりそうだから、こうして外に出てきてるんだがね」
紀尾三刑事はモオルダアを見るなりそんなことを言い出した。退屈しているところへ調度いい話し相手が出来たといったような感じだった。
「昨日も夜中に公園を捜索をしたみたいですが。署長は公園に野々山を名乗る女性がいると確信があったんですか?」
モオルダアは紀尾三の前の席に座りながら言った。
「どうだろうね。なんだか急に焦りだしたって感じだったが。よそから来たキミ達にアレコレされるのが気に入らないのかも知れないなあ。ほら、あの。キミのところの彼女が警察の捜査資料が盗まれたなんてことを言い出したもんだからね。警察の威信に関わるってことで、警察主導で事件を解決したいってことじゃないかなあ。まあ普段から変なことばっかりしてる人だから。こんな街の警察署じゃなければ大問題になりそうなところだが。私なんかはいい迷惑ですよ。こうして外に出ていないと、署長に色々と言われるからね」
そう言ってから紀尾三刑事はアイスコーヒーを一口飲んだ。その様子からは特に迷惑しているようには見えなかったが、それはどうでもイイ。
「その資料にあったという小堀かほりのことなんですけど。紀尾三刑事はあの方をご存知だとか」
「知り合いってほどじゃないけどね。この街じゃ名士って人だったから、街の会合なんかに顔を出すことも多かったし。私も警察署の代表としてそういうところに参加することもあったんでね」
「小堀さんはどういう方でしたか?良く喋るとか、そういう感じでしたか?」
「いやあ、どっちかって言うと喋らない方だったが。でもおとなしいということでもなくて、しっかりとした意思を感じるというかね。代々続いた大地主ってことだし。育ちが良いっていうのはこういうことか、って思ったね」
紀尾三の記憶の中の小堀かほり像は昨日モオルダアたちが話した、あるいは話したと思っている小堀かほりの印象とは全く違うものだった。
「その小堀さんは今もこちらに?」
「いや、あの公園の土地を売り払ったあとで越していきましたよ。あの公園の土地だけじゃなくて、この辺に持っていた土地は全部売って何か始めるということでしたが。どこに行ったかは知りませんがね。その辺は役場にでも問い合わせてみたら?あるいは、この土地に昔からいる連中に聞いてみたら解るかも知れないなあ」
紀尾三刑事はまるで他人事のように話しているが、エフ・ビー・エルに協力を求めてきたのは自分だということを覚えているのだろうか?モオルダアはなんとなくモヤモヤしたものを感じてしまったが、紀尾三刑事としては、彼らを呼んだことによって事件に関してはすべて任せっきりに出来ると思っているのかも知れない。
結局解ったのは昨日会ったのが本物の小堀かほりではなさそうだ、ということぐらいだった。あとはすべてが謎という感じだが、あの森の公園の関係者のフリをした人間が二人いるのは確かなことである。そう考えたモオルダアだったがすぐにその考えを改めた。確実に解っているのが二人であり、姿は見ていないがモオルダアが朦朧とした意識の中で声を聞いた人物がいる。その人物はニセ野々山と思われる声の女性と話をしていて、お祖父様と呼ばれていた。それはつまり森の公園になる前の森を管理していた野々山という男か、あるいはそのニセモノということになる。
昨日話したニセの小堀かほりの話では野々山は土地を売却することに難色を示していたということだが、実際のところはどうなのだろうか。
「紀尾三さん。昨日病院で野々山の孫について話を聞きましたが、あの森を管理していたという野々山さんについてはなにか知っていますか?今この街にやって来ているとかいうことはありませんかね?」
「野々山さん?あの人が何をしに来るっていうんだ?」
「あの森の公園はまた別のところが再開発するって話じゃないですか。そうなると、あの森も切り開かれたりすることもあるかも知れませんし。そういうのに反対するってことはないでしょうかね?」
「さあ、どうだかね。あの人は今じゃかなりの年寄りだからなあ。そんなことのために森の公園を歩いてる人間を拉致するなんてことをするとは思えないが」
「まあ、人はどんなところに情熱を燃やすのか、他人には解らないこともありますからね」
そう言いながらモオルダアはなんとなくソワソワした気分になってきた。出かける時に何か忘れ物をしているような気がするけど、それが何なのか解らない時の感じである。後で気づくとどうでもイイものの事もあれば、重要なものだったりすることもある。そんな感じでモオルダアは落ち着いて座っている気分ではなくなって来たので、喫茶店を出ることにした。