「回人」

03. 山間の小さな街にある大きめの病院

 エフ・ビー・エルの二人が目的地の病院に到着した。モオルダアは眠そうな目をしているし、スケアリーはここ数時間のあらゆる事に関する苛立ちを隠せないような表情をしていた。

「あたくし達エフ・ビー・エルの捜査官ですけれど、守山という方の病室はどこですの?」

病院に入るなり大きめの声でスケアリーが言うと、職員達は驚いた様子で振り返った。だが、この声に反応したのは病院の職員ではなかった。出入り口の近くにいた紀尾三(きおみ)というかなり歳のいった刑事が慌てた様子で二人に近づいて来た。

「ああ、こりゃどうも。連絡した紀尾三です」

「あら、それはどうも」

紀尾三とスケアリーのやり取りを聞いていたモオルダアは、まだ半分寝ぼけているような状態ながらも、変なやり取りだと思ったが、それはどうでも良い事だった。

「それで、守山という方はどこにいるんですの?」

「それがですね。この病院に入院してるんですが、そうとうなショック状態ってことで、まだ話も出来ない状態なんです。まあ様子だけは見ることは出来ますがね」

そう言いながら紀尾三はすでに守山のいる病室へと歩き出していた。そのあとをエフ・ビー・エルの二人がついて行く。エフ・ビー・エルの二人がいなくなると、人の少ない病院の入り口はまた静かないつもの日常に戻った感じがした。


 ベッドに横になっている守山は、目を覚ましてはいたが刑事とエフ・ビー・エルの二人が病室に入ってきてもなんの反応も示さなかった。

「守山さん、調子はどうかね?」

紀尾三の言葉にも反応はない。

「見つかった時からずっとこんな感じでね。家族から捜索願が出たのが三日前。朝になっても仕事から帰ってこないってことだったんだが、翌日に朦朧として歩いているところを私達が見つけたんだよ」

 スケアリーはベッドの横にカルテを挟んだクリップボードがあるのに気付いて、それを読んでいた。

「外傷は膝の擦り傷だけ。その他身体の機能に異常はないようですわね」

「ああ、そうなんだ。膝に傷っていうのも、朦朧として歩いてる時に転んで出来た傷みたいだから。あと顔や腕にも細かい擦り傷みたいなのがあるが、森の中を歩いて気の枝やなんかで出来た傷だろうってことだな。でも、こんな状態になるってことは、なにか恐ろしい目にあったんじゃないか?って思うんだがね」

「PTSDの兆候はあるかも知れませんわ。でも恐ろしい目にあったといっても、何かに襲われたりしたのなら抵抗もするでしょうし、無傷なのはおかしいですわ」

「あんた詳しいんだな」

「あたくし、一応無免許の医者ですから」

「ああ、そうなのか。私なんか医学に関してはABCも知らないからなあ」

紀尾三はスケアリーがPTSDという言葉を使ったので、それに対してABCと言ったのだが、それほど面白くはなかったかな、と密かに思っていた。

「先に意識を失って、そのあとどこかへ連れ去られたということなら、抵抗はしないと思うけどね」

ここでやっとモオルダアが口を開いた。

「ある種の誘拐事件では、連れ去られた時の記憶が無いことが多いんだ」

「それはどんな種類の誘拐で?」

「薬品なんかを使うんじゃないかしらね?」

モオルダアがエイリアンによる誘拐事件の話を始める前にスケアリーが遮った。モオルダアはもう少しその方面に関する知識を披露したかったのだが、スケアリーが自分を睨んでいるのに気付いて、それ以上誘拐の話をするのはやめておいた。

「いずれにしろ、この状態じゃ埒があかない。ただ、ボクらがこうして呼ばれたってことは、これが初めての事件じゃないって気がするんだけど。こういう失踪事件は近い場所で何度も起きることがあるからね」

モオルダアはUFOやエイリアンという言葉を使わないようにして話した。

「実はそうなんですよ」

紀尾三がそう答えると、適当に言ったことが当たってしまったモオルダアが密かに驚いていた。


 紀尾三が話したところによると、これまでにすでに三人が守山と同じように行方不明になって、数日後に放心状態で道を歩いているところを発見されている。そして、三人とも見つかってからしばらくの間は意識があるのかないのか解らないような状態だったそうだ。それでも時間が経てば回復してまともに話す事も出来るようになったので、話を聞いてみたが失踪した時の記憶はなく、ただ恐ろしい経験をしたという事だけが記憶に残っていたということだ。

「それはいつのことなんですの?」

「一番最初が約三ヶ月前。次がだいたい一ヶ月前ですかな。最後が三週間前。三人とも記憶にある最後にいた場所が森の公園だったということです」

どうやらその森の公園に行ってみないといけなくなったようだ。