「回人」

07. 警察署の前

 スケアリーが警察署の前でイライラしながら待っていると汗ばんだモオルダアが小走りにやって来た。モオルダアとしては大至急やって来たつもりだったのだが、スケアリーにとってはそうでもなかったようで、彼女の表情に苛立ちが見え隠れしている。

「ちょいと、遅いんじゃありませんこと?病院のほうじゃそれなりの収穫があったんでしょうね?」

「ああ、まあね」

と返事をしたモオルダアだったが、果たして収穫と呼べるようなものがあったかというと、なんとも言えない。

「それで、警察署では何が解ったの?」

「そうなんですのよ。あたくしちょっと気になるところがあったものですから。といっても直感だけに頼ったワケではなくて、説明できるような理由がなくても、どこかに違和感のようなものを感じる時にはそれなりの理由があるってものでございましょう?」

「うん。まあね…」

スケアリーは余程の発見をしたのか、なかなか本題に入ってくれない。

「それで、過去にあったという似たような失踪事件について調べてみたんですの。捜査記録によると失踪していた方達に共通点があったんですの。彼らは失踪直前に…」

「あの森で誰かと数回すれ違っていた」

スケアリーが言おうとしたことをモオルダアが言ってしまって、さっきまで得意になっていたスケアリーはムッとするかと思ったが、そうでもなかった。

「あら?もしかして、守山って方も同じようなことを言ってたんですの?それはますます怪しいわね」

「どういうこと?」

「あたくし、これらの失踪事件は狂言の可能性があると思っているんですの」

「狂言?!でもさっきの守山の様子からすると、とても小芝居でやってるような感じはなかったけどなあ」

「それはその人の演技力次第ですわよ。どっちにしろあたくしが気づいたことはもっと重要なことなんですのよ。なかなか気づかないかも知れませんけど、これまでの事件の被害者には他にも共通点があるんですのよ」

「本当に?…といっても、それは失踪事件と関係することなの?」

「それは解りませんわよ。だから今から調べに行くんじゃありませんか」

「ああ、そういうことか」

スケアリーの調べたところによると、これまでの失踪事件の被害者達はみな、ある意味であの森の公園の関係者なのだそうだ。それが何を意味しているのかは解らないが、とりあえず各被害者のところへ行って話を聞いてみる必要がありそうだ。

 そういうことになって二人が警察署の前から移動しようとした時、モオルダアの前にどこかで見た顔が現れた。

「やっぱりあなた警察の人だったんだ」

そう言ったのはさっきモオルダアが森の公園で出会った若い女性だった。

「あ、キミは。…ボクは警察じゃないって、さっきも言ったけど」

「じゃあ、捕まったんだ。私もあなたは怪しいと思ってた」

「そうじゃないし…」

モオルダアの反応を見て女性は面白がっているようだった。スケアリーは何が起きているのか解らなかったが、若い女性がモオルダアと話していて、二人が何となく楽しそうなのが気に入らない。

「モオルダア、この方誰なんですの?」

「いや、さっきのあの公園で…」

モオルダアが答えようとしたが、途中で女性が割って入ってきた。

「私、野々山葉菜(ののやまはな)って言います。あなた達はあの公園について調べているみたいですけど、私は子供の頃からあの公園を知ってますから、何か知りたかったら私に聞いてください」

「あら、そうでしたの。でも今のところあなたの助けは必要なさそうですわね。それにあたくし達にはやることが沢山ありますから、あまり邪魔しないで頂けるかしら?」

スケアリーは穏やかに言ったが、野々山という女性は、スケアリーの眉間のあたりにちょっとした怒りを感じ取って、少し怯えたようにモオルダアの方へ体を近づけた。

 モオルダアとしては、どうしたものか?という事になってしまったが、ここで喜んでしまうとマズい気がしたので、野々山から一歩離れてスケアリーの横に立って野々山の方に向き直った。

「ということだからね。協力には感謝するけど、ボクらにはやることがあるから、失礼するよ」

エフ・ビー・エルの二人はスケアリーの車の方へ歩いていった。野々山は後ろからその姿をジッと見ていた。怒っているわけでもないし、ガッカリしているということでもない。何を考えているのか解らないが、色々な感情の入り混じったような目で二人が車に乗るのを見ていた。