「再会」

19. 美熟女

 モオルダアは電車を降りるとF.B.L.ビルディングの方へと向かって歩いていた。特に用事はなかったのだが家に帰ってまた恐ろしい夢を見る気にはなれなかったので、眠気でボンヤリした感じのまま午後の道を歩いていた。すると背後から彼を呼び止める声がした。

「もし、そこのお方…」

その声に振り向いたモオルダアはドキッとして声の主に見入ってしまった。そこにいたのは中年といっても、かなり上の方の中年という感じの女性だったのだが、モオルダアに限らず、どんな男性でもドキッとなってしまうような妖艶な魅力を漂わせていた。

「あなた、私の大事な物を持っているのはないですか?」

女性がモオルダアに聞いた。モオルダアはまだドキッとなったまま女性に見とれていた最中だったので、何のことだか解らない感じで「えっ?!」と返した。

「どうやったのか知りませんが、もう一度あの人と会いたいと思うのなら私の言うことを聞いた方が良いと思いますけど。アレを使えるのは私の他にはいませんからね」

女性にそう言われたモオルダアは何を言われているのか理解できなかったが、なぜかこの女性とどこかであったようなヘンな感覚に襲われていた。

「あの、何のことだか…」

「あなたが持っているのは解っているのです。そしてあの人にまた会いたいと思っていることも。しかし、それでは何にもなりませんよ。もしもあなたがすぐにでも死んであの人の元へ行きたいと思うのなら、あなたの持っている物だけでは足りません。私の力が必要なのです。ですから、あなたは手に入れた物を…」

モオルダアは聞いていて少し恐ろしくなって来ていたのだが、女性がそこまで話すと彼女はモオルダアの背後の遙か遠くの方にある何かに気付いたようでハッとなって話すのをやめた。そこからヘンな間が空いた後にまた女性が話し始めた。

「いいですね。アレはあなたの力ではどうにもならない物なのです。そこを忘れてはいけません」

そう言うと女性はもう一度モオルダアの背後の遙か遠くを見てから急いで立ち去ってしまった。

 一体何なのか?と思うと同時に、モオルダアの脳裏にはこの数日間に見ていた夢のことが思い起こされていた。そして、それらの夢の内容をなんとなくまとめた結果、見えてきたボンヤリとしたイメージにモオルダアは身震いしていた。「そんなことって有り得るのか?」とも思っていたが、モオルダアは振り返ってF.B.L.ビルディングとは反対の方向に歩き出した。