「再会」

25.

 モオルダアは天井を眺めながら、これはどこかで見たことがあると思っていた。それは確かモオルダアが老人になっているというあの夢に出てくる部屋の天井に違いなかった。あの夢のとおりならこれから子供が出てきたりローンガマンのメンバーの声が聞こえたり、スケアリーが出てきたりするのだが、モオルダアはそうならない気がした。なぜそう思うのかは解らなかったが、前に見ていた夢とは違うどこか陰鬱な空気が彼と天井の間に感じ取れたのだ。

 悪夢の中で何かが起こりそうだ、と思っている感じは嫌なものだが、それだからこそ悪夢なのかも知れない。そんなことはどうでも良いが、モオルダアも悪夢の中のあの嫌な感じを味わいながら天井を眺めていた。すると彼の目の前にミイラ化したオイタが現れた。

 シワだらけの顔で、どんな表情をしているのか解らなかったが、モオルダアはそれが軽く微笑んだようにも見えた。何か嫌なことが起こりそうで、モオルダアは起き上がって逃げ出したかったのだが、この場所に寝ているモオルダアは老衰で死にかけということになっているので、体が動かせなかった。

 ミイラのオイタはモオルダアに覆い被さるようにしてモオルダアの顔を覗き込んでいた。そしてそモオルダアを見つめたまま手を彼の腹部にのせると、その手は彼の皮膚を通り抜けて内蔵の方へめり込んでいった。

 何が起きているのか解らなかったが、モオルダアがオイタの方を見つめていると、オイタはモオルダアの腹部から手を抜き出した。それと同時にモオルダアの腸がニュルニュルと彼の体外に引き抜かれていった。苦痛はなかったが気持ち悪くないわけがない。顔をしかめるモオルダアを見てミイラのオイタがまた微笑んだような気がした。そして再びモオルダアの体の中に手を入れると次々に内臓を取り出していった。

 内臓を取り出す度にオイタの微笑みが鮮明になっていくような感じがした。というよりは、内臓を取り出す度にオイタは普通の人間の姿に戻っていくようだった。そして、モオルダアの内臓を完全に抜き取ってしまうという時には、彼女は完全に元の美しいオイタの姿に戻っていた。

 元に戻ったオイタが微笑むとモオルダアは全身の力が抜けるような気分になっていた。

「もう少しですよ、あなた。もう少しで全てが終わりますよ」

美しすぎる微笑みだった。世の中の全ての美しいものを集めてさえ敵わないような微笑みだとも思えた。モオルダアは衝動を抑えきれずに、手を上げて彼女の顔に触れようとした。これまでは思い通りに動かなかった体だが、そこでは何とか動かすことができた。ゆっくりだが少しずつモオルダアの手がオイタの顔に近づいて行った。

「全部あなたのためにしたんですから…」

モオルダアはそれはもう解っていると思いながら、やっとのことで手を彼女の顔の前まで持ってきたのだが、その時にあることに気付いてギョッとしていた。彼の手はいつの間にかカラカラのミイラのような状態になっていたのである。

「あなたのためにしたんですよ…」

そう言われてモオルダアはオイタの方をみた。するとその瞳に自分の姿が映っているのが解った。そこにいたのはほとんど原型をとどめていないミイラ化したモオルダアの姿だった。

 もうそろそろ起きないと大変な事になる、という感じだが、そんなタイミングでモオルダアはギャァ!っと悲鳴をあげながら目を覚ました。


 時計を見るとまだF.B.L.に向かうには早かったが、捜査に向かうにはちょうど良い午前7時だった。「全部ボクのためにしたって言うのか?」モオルダアは頭の中で何度かそう繰り返しているうちに何かに気付いたようで、フラフラと立ち上がるとそのままどこかへ出かけていった。