「再会」

21. F.B.L.のラボ

 スケアリーは携帯電話を耳から離すと小さくため息をついてから通話終了のボタンを押した。「まったく、何なんですの…?」先程から何度もそんな感じなのだが、そろそろ諦めたようで携帯電話をしまうとラボにある大きめの机のところの椅子に座った。

 机の上にはこれまでに集められた事件の資料があるのだが、先程から何度も電話をしているのに電話に出ないモオルダアが今何をやっているのか気になって、しばらくは何も出来ないままただ資料の紙をめくっていただけだった。

 そのまま頭の中がボンヤリしたまま虚ろな目で紙をめくる指先を眺めていたスケアリーだったが「これでは何にもなりませんわね」と心の中で呟くとノートパソコンを開いてこれまでの経過をまとめ始めた。


「オイタ・ワカコのミイラ化と変態モオルダアが結婚していた件」ですのよ。


 まずなによりも重要なのは、死亡したオイタが死後数時間でミイラ化したことですわね。このミイラ化のために警察ではオイタの死因を自然死としたようですが、そこも気になるところですわ。ただし、警察はこの件に関して隠蔽するようなことはせずに、F.B.L.の要求に応じて遺体をF.B.L.に引き渡してくれましたのよ。ただ今専門チームが分析しているので、詳しい分析結果がすぐに得られると思いますわ。

 あたくしが考えるところですと、オイタの死後、あるいは死の直前に何かの薬物がオイタの体内に注入されたのではないかと思っていますのよ。老化を止めることは出来なくても、早めることなら可能かも知れませんし、もしかすると一気にミイラのような状態にすることが出来る方法もあるのかも知れませんわね。

 それがどんな方法であったにせよ、科学的な分析によって原因が突き止められるはずですわ。


 そして次に町田さんの家にいた老婆について。モオルダアはあの遺体が町田さんの遺体だと言っていますが、今のところ否定するにも肯定するにも証拠が少なすぎますわ。ですけど、あの家から採取された毛髪や皮膚のDNA鑑定をした結果、遺体のDNAと一致したということですのよ。それだけであの遺体を町田さんの遺体だとするのは間違っているのですけれど。そうなるには何か理由があるに違いありませんわ。もしかすると町田さんはずっと前からあの家にいなかった可能性もありますし、こういう時に科学の目で物事を見られなくなると、モオルダアのような人の意見に惑わされるからいけませんわ。

 とにかく捜査に先入観は禁物と言うことですわね。


 さらに、気になるのが今回の被害者に共通する宗教団体ですわね。まだ殺人かどうかさえ解らないのですから、被害者と言っていいのかも解りませんけれど。それぞれの家にあった御札。それにあの御札は続出している自殺者の家にもあったということですわね。それはつまり、一番怪しいのがその宗教団体ということになってきますけれど。

 宗教団体のトップが亡くなったということですから、もしかすると跡継ぎを誰にするのか?というところで問題が発生したのかも知れませんわね。ただし、それなりに歴史のある団体なら、その辺りはしっかりしていそうなものですけれど。

 その教団についても少し調べる必要がありそうですわね。ただしカルト教団ということだとしたら、それなりに慎重にならないといけないかも知れませんわね。今回の事件の裏に見え隠れしている大きな組織というのはその宗教団体かも知れませんわ。モオルダアは小さな組織が大きな何かを隠していると言っていましたけれど、出任せの推理には惑わされませんわよ。


 最後に、そのモオルダアですのよ。

 オイタとも、もしかするとあの教団とも関わっているかも知れないモオルダア。一体何だと言うんですの?教団が出来たのが明治時代。あの写真も明治時代。それは偶然の一致かも知れませんけれど。でもどうしてモオルダアが明治時代の写真にオイタと一緒に写っているんですの?


 そこまで書き込むとスケアリーは気味が悪くなってそれ以上書くのをやめてしまった。常識で考えてモオルダアが明治時代から生きているワケはないのだが、それでも何かが気になって、さらにそのことについて考えると、どうにもならない恐怖というか、自分が真っ黒い何かに覆われて何も出来なくなってしまうような感じになって、そこはあまり考えたくなかった。

「一体モオルダアはどこで何をしているのかしら?」

そう呟きながらスケアリーはまた携帯電話を持って電話しようと思ったのだが、また電話に出ないような気がしたので、そのまま携帯電話をしまった。