「再会」

32. F.B.L.のラボ

 スケアリーはラボの机においたノートパソコンでこれまでの事件のまとめノートの続きを書いていた。


 先程あたくしが依頼していた写真の鑑定結果が出ましたわ。あの明治時代の写真と本物のモオルダアの写真を分析した結果、完全に別人であると判明いたしましたのよ。あたくしはあの写真を見付けた時に少し動揺していて、冷静に判断が出来ていなかったのかも知れませんわね。あの時にこうして分析していればモオルダアに関して余計な心配はしなくても良かったのですけれど。

 ともかく、それ以外の事については全てが謎ですのよ。死後にミイラ化した方達は本当に人間では有り得ない年齢だったのか。町田さんの家で見付かった遺体は本当に町田さんだったのか。そして誰かの命を別の誰かのものにするというようなことが本当にあるのか。あたくしは全てにノーと言いたいのですけれど、あたくしが実際に目にしたあの現象はなんだったのか?ということを考えたら、このまま全てが終わったとするワケにはいきませんわね。

 それから、この際ですからモオルダアの保険金詐欺事件についても調べるべきだと思ったのですけれど、モオルダアはそうする必要はないと言っていましたわ。あの詐欺事件に関わった人物であるホサカさんが言うには、今回の事件で彼女以外に保険金詐欺に関わった人間は全て「終わりの時」を迎えたということですわ。そのホサカさんだけでも逮捕することはできるはずですけれど、なぜかモオルダアは乗り気じゃないみたいですし、このままにしておいてもシーズン2からF.B.L.の中身がずいぶんと変わってしまって、捜査官を詐欺で騙すようなことができなくなったので、このままでも良いのかも知れませんわ。

 そして、そのモオルダアですけれど。あの方はまたおかしなことを言って、全ては夢の中でオイタに教えてもらったと言っていましたわ。悪夢を見るのは精神的な要因がほとんどだと思いますけれど、彼の今日までの顔色を見れば、疲れが溜まっていたに違いありませんわ。人はとかく夢や以前に起きた何かの現象を現実世界の出来事と重ね合わせて解釈したがるものですものね。

 あたくしはF.B.L.の捜査官であると同時に科学者として事実の解明をしなければいけませんわ。それが困難を極めることだとしても、あたくしは常にそれに立ち向かって行かなくてはならないのですのよ。


追記:山村刑事からの連絡で解ったのですけれど、元警察署長が家で遺体となって発見されたということですのよ。わざわざ連絡をしてくるということで予想は出来ていたのですけれど、その遺体もまたミイラ化したということですわ。なぜかオイタの死が自然死とされたのにはそれなりの理由があったと言うことですわね。きっとそれ以前にも、不自然な死が隠蔽されていたのかも知れませんわ。

33. モオルダアのボロアパート

 モオルダアは家に帰ると着替えてすぐに布団に潜り込んだ。これまでの寝不足で疲れていたこともあったし、事件がなんとなく解決みたいなことになって悪夢は見ないような気がしたということもあった。それよりも、モオルダアは別のことを期待しているのでもあった。

 これまでさんざんオイタのために動いて来たんだし、まあ夢の中とはいえ、それなりの何かがあっても良いんじゃないのか?とか、美女のオイタが何かご褒美をしてくれるんじゃないか?とか思いながら、モオルダアはにやけすぎな感じで布団に横になったのである。


 夢の中でモオルダアはむせ返るような深い緑の木々に囲まれた場所に立っていた。頭の上の方には霧が立ちこめていたが、陰鬱な感じはしない場所で、少し冷たい空気を吸い込むと木や土の香りがして、どことなく生命力にみなぎっている場所でもあった。

 モオルダアが周りの景色に気をとられていると、どこからか彼の名を呼ぶ声が聞こえた気がして振り返った。見ると少し遠くにオイタの姿があった。彼女は男と並んで立っていた。男はモオルダアに背を向けていたので誰だか解らなかったが、だいたいどういう人間なのかは解る気がした。

 オイタはモオルダアに向かって軽く微笑んだように見えた。遠くて良く解らなかったが、微笑んでいたに違いなかった。それから頭を下げてモオルダアに向かって深々とお辞儀をした。そんなに丁寧にお辞儀をされるとモオルダアも黙って立っているわけに行かず、お辞儀を返した。そしてモオルダアとオイタがほぼ同時に顔を上げると、オイタはもう一度微笑んでから隣の男性の腕をとった。そしてそのまま振り返ると二人そろって木々の向こうへとゆっくりを消えていった。

 モオルダアはすがすがしい気持ちで二人を見送っていたのだが、急に「あれ?」という疑問が沸き上がってきたところで目が覚めた。


 布団の上で体を起こしたモオルダアは、まだ寝ぼけた感じのまま今まで見ていた夢を思い出していた。記憶に残っていない部分までも含めて何かないのか?と思って思い出してみたが、何もないようだった。

「それだけかよ…」

モオルダアは呟いた。そして、なんとも言えない脱力感に襲われると同時に、これまでの疲れが一気に出てきたような感じで眠気に襲われて、そのまま横になって深い眠りへと落ちていった。明日は遅刻に違いない。

2011-07-05 (Tue)
the Peke Files #027
「再会」