「再会」

29. 明治38年・東京のどこか人気のない場所

 鬱蒼とした木々に覆われて昼間だというのに夕暮れのように陰鬱な場所にオイタと男が立っていた。

「あなた、もう行ってくださいな」

「何を言っているんだ。キミをおいて行くなんて。そんなことが出来るわけがないじゃないか」

「ですから、何度も言ったように、私達は出会うべきではなかったのです。さあ、行ってください。ここにいることもすぐに知られてしまいます。さあ、後生ですから。あなた、行ってくださいな」

「ボクの気持ちはどうするんだ。ボクはキミを…こんなにもボクはキミのことを愛して…」

「ハッ…!あなた、早く逃げて!」

オイタは誰かがやって来たのを見て言ったが、すでに手遅れであった。木の陰からワカイが姿を現したのだ。そして数人の男女が彼女に続いて出てきた。

「ずいぶん探しまたよ。こんな所に隠れていたのね。教団の掟を破ることは許されません。解っていますねオイタさん。さあ、連れてお行き!」

ワカイが命令すると彼女の後ろにいた男女がオイタを両脇から掴んでどこかへ連れて行こうとした。

「あなた!早く逃げて。逃げて」

オイタは連行されながら叫び続けたのだが、次第に男の姿は木々の間に隠れて見えなくなった。そしてしばらくすると、その向こうから一発の銃声が轟いたのだった。