「再会」

26. F.B.L.ペケファイル課の部屋

 スケアリーは一人で部屋の机について昨日オイタの家で採取した白いかたまりの分析結果を読んでいた。それによると、例のかたまりからは瞬間接着剤に使う以外の成分は一つも見付からなかったという意味において明らかに瞬間接着剤である、ということが書かれていた。しかもどこのメーカーの何という名称の瞬間接着剤か、ということまで特定してあった。

 その分析結果には納得であったが、スケアリーはそれがモオルダアが推測したとおりだったということが気に入らなかった。ずっと顔色が悪く、最近はいつでも半分寝ているような目をしているモオルダアが的確な推理をしているのがどことなく気味が悪くもあった。オイタがわざわざ壁に包丁を接着してそれを背中に刺す理由があるのだろうか?それに、どうしてモオルダアはそんなことに気づけたのだろうか?もしも、モオルダアがウソをついていて、実際にはあの場所にいたということなら…。

「だったら、何だって言うんですの?!」

スケアリーは頭に浮かんできた良からぬ幻想を振り払うように独り言を言うと、カバンからブルボンのアルフォートを取り出して袋を開けた。そして中身を一つ取り出そうとしたところで部屋の扉が開いた。

 スケアリーが扉の方を見ると、そこには山村刑事と川村刑事がいた。

「いやあ、どうも。これは何やら大変な事になって来たようですよ」

山村刑事が言ったが、その前にノックもしないで「何なんですの?」ということであったし、それよりもこの二人は毎回どうやってF.B.L.ビルディングに勝手に入って来ているのか?という感じでもあった。入り口に警備員がいて、誰でも入れるということにはなっていないのだが。

 まあ、そこを気にしても仕方がないが、スケアリーはまずアルフォートを食べたかったので、二人の刑事に向かって「あなた達もいかがかしら?」と聞いた。

「いや、私は甘い物は苦手でして」

山村刑事がそう言って断ると、スケアリーは一人で食べ始めた。川村刑事はちょっと小腹が空いていたし、食べたかったのだが、山村刑事が断ってしまったので食べることはできないようだった。

「それで、どうしたと言うんですの?」

アルフォートを食べ終えたスケアリーが聞いた。

「あの、モオルダアさんのことなんですがね。彼は今日ここに来てないんですか?」

山村刑事が色々と探るような目つきでモオルダアのことを話し始めたので、スケアリーはなんとなくイヤな気分になっていた。

「モオルダアは最近疲労が貯まっていたようでしたから、あたくしが昨日軽い睡眠薬を渡して休むように言っておきましたわ。ですからまだ寝ているのかも知れませんね」

「そうなんですか。まあ、どこまで本当なのか解らないのですが、どうやらモオルダアさんが例の教団から盗まれた聖なる甕を持っているということなんですよね」

「カメですの?!」

「そうなんですが、何か心当たりがありませんか?」

「そんな話は聞いていませんけれど…」

一体モオルダアは何をやっているのか?と不安になりながらスケアリーが答えた。

「まさか、知っているのに隠しているってことはないですよね?」

川村刑事に言われてスケアリーはキッと彼を睨みつけた。スケアリーは何も言わなかったが、川村刑事は「すいません…」と言って誤った。

「だいたい、どうしてモオルダアがその甕を持っていると推測できるんですの?」

「いや、これはあの教団のワカイという人が言っていたことなんで、丸々信じるワケにはいかんのですがね。彼女が言うには、聖なる甕に近づける教団幹部のうちの一人であるオイタが甕を盗み出して、それを夫のモオルダアに渡したということなんだが」

「それは、有り得ませんわ!」

「そうなんだがね。私だって、取調室でのモオルダアさんの反応を見てますし、あの二人が殆ど面識がないことぐらいは解ってますけど」

山村刑事が言ったあと、各自がそれぞれ何かを考えるようにうつむくと沈黙がしばらく続いた。そして最初にスケアリーが顔を上げて言った。

「解りましたわ。今回のモオルダアは少しヘンですし、もしかすると誰かに騙されて上手いこと操られているという可能性もありますでしょ?保険金詐欺でモオルダアを陥れた相手でもありますし。ですから、モオルダアに怪しいところがあればあなた方に連絡いたしますわ」

「そうですか。それは助かります」

「そうですね。下手に動くと我々の信用に関わりますからね」

最後の適当な発言は川村刑事のものである、ということはどうでも良いが、モオルダアと甕に関する話をすますと二人の刑事はペケファイル課の部屋を出て行った。二人を見送った後、スケアリーはもう一つのアルフォートを取り出して食べると、すぐに携帯電話を取り出して電話をかけた。